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風が吹いた。
枝が軋み葉がカサカサと音を立て擦れ合う。落ち葉は地を転がりあるいは舞い上げられ後方へ流れていく。短い髪も後方へ流され弄ばれた。

風に一瞬眇めた目を開きまた歩き出す。枯れ葉と木立と乾いた地面、単調な景色が後ろへ流れ出す。

全てが流れてゆく。全てが一定に止むことなく後ろへ流れ、そうして前へと進む。


時も、等しく平等に。過去は置き去られ後ろへ流れゆき、未来へ止まず進み続ける。そんなの、気にもせず歩み続けていた。
だから、振り返ってしまってから、まるで知らなかったかのように驚き、

絶望した。


ずっと側にいて、当たり前に続くと思い込んでいた日常。知らぬ所で呆気なく崩れさった関係。棺桶に入った彼の頬に触れて、その白い顔が笑むことは二度とないと思い知って。

時など、止まってしまえと思った。

振り返っても、掴めない過去。後方へ流れて、遠く離れてゆく。立ち止まることすら許されない。
先など、酷く空々しく思えた。





「ヒバリさん」
唐突に掛けられた声。ちらと見れば駆けてくる少年。懐かしい面影、失った存在、けれど、確かに其処で意志を持ち動き生きていて。
一度失ったのに、守れなかったのに。追いかけてきた小さな少年。過去から、時を飛び越えて、また巡り会えた。

「ヒバリさん!」
声とともに、少年の手が袖を掴んだ。引かれて漸く立ち止まり、ゆるゆると振り返れば。

花のような笑顔を咲かす、最愛の人。

思わず見蕩れて。堰を超えてしまった想いのままに、そっと、抱きしめた。


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