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「あったか……」
薄い紙包みからじんわりと熱が指先にしみる。かじかんだ手には少し熱かったけれど、それも慣れれば心地いい。
手頃なベンチを見つけて座る。木製だけれど、やっぱり冷えていてぶる、と少しだけ身震いする。
包みを開ければ仄かに甘い生地のかおりが温められた空気にのって伝わる。白のゆるい曲線が覗きこく、と喉が鳴った。
一口、かじればやわらかい生地と温かい餡子が程よい甘さを広げる。
誰に言うでもないけれど思わずおいしいと呟いた。

もったいなくて少しずつかじっていく。ふたくち、みくち。
と、唐突に黒髪がさらりと流れあんまんを横からかじった。
あんまんをもっていた手に頬がかすってほんのりと熱を残す。
「おいしい」
綺麗な声。驚きに固まった思考がまた動き出す。しかしいったい何処から出てきたんだ。半ば呆れ振り返った。
ベンチ越しに学ラン姿の少年。ヒバリさん、呼ぼうとしたら後ろから抱くように手を重ねあんまんをはしと掴まれた。
「校則違反。登下校中買い食い禁止」
淡々とした口調、けれど心なしか口角が上がっている、ような。というかヒバリさんさっき食べてませんでしたか!?
言えるはずもないことが頭をよぎりつつこわばった顔を無理矢理笑わせてみる。血の気が引いてくのはどうしようもない。
「罰則だね」
ますます彼の口角が上がる。
が、トンファーが出されることはなく。

あんまんが手からすり抜けた。

豪快にぱくりと、ど真ん中にかぶりつく。未だかつて見たことのない笑み。
呆けているとあっという間に残りは一口大になっていた。
――咬み殺されるより、マシだろうか……
粒あんが口一杯に広がる甘さを想像して、思わず涙目になる。
ふと、彼が最後のひとかけらをこちらに向けた。口元に差し出されたそれが甘い香りをふわりと運び、手で受け取るのも忘れて口を開ける。
ぱくりと口を閉じる、直前まさしく目にも見えぬ速さで逆戻りしたあんまんが彼の口の中に消えた。

「…………っ……ヒバリさん!!!」

思わず腕をもぎ取らんばかりに縋り付いた。と同時に彼のもう片方の腕が頭の後ろを捉えるのを感じる。
上向かされた顔のすぐ近くに彼の綺麗に整った顔。仰け反ろうとしたけれどまるで動かせない。
鼻先が一瞬触れて僅かに首を傾いだ彼の唇が重なった。

その熱はすぐ離れたけれど、冷気に侵される唇と対照的に頬はだんだん熱くなる。
「ご馳走様おいしかったから今日はこれで許してあげる」
彼の手が離れてすとんと落ちるように再びベンチに座り込む。何か理不尽な気もしたがうまく頭が回らない。ぼおっと見上げていると
彼の手にトンファーが現れた。
「と思ったけど、せっかくだからやっぱり戦ってよ」
「…………はいっ!?」
やはりとても理不尽だった一瞬にして醒めた頭で考えて、俺は全速力でその場を後にした……

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「………っ」

思わず肩が跳ねた。窓向き側のソファーに、座るべきじゃなかった。
来る。来る。絶対来る。
目を瞑り耳を塞ぐ。息を詰めて、数秒後、轟く雷音。
恐る恐る目を開ければまた暗い空に稲妻が走る。
急いで顔を伏せる。轟音。
絶対、雷様はサディストだ。空を光らせて、いつ鳴るかいつ鳴るかと怯える人間を見て楽しんでるんだ、きっと。へそ取るとか言うし。
現実逃避に走れば、不意に人の仄温かさを感じた。隣に座って後ろから抱きしめられているのか。
顔を上げれば、耳に当てていた手を外される。

途端、雷が鳴った。

慌てて耳を塞ごうとすれば手首を押さえられた。クスクスと笑い声が聞こえる。そうだ、この人もサディストだった。
次々と鳴る雷に、力任せで手を取り返そうとしたがびくともしない。
「なんなんですか!」
「帰ろうって言ってるのに君が聞かなかったから」
「こんな中帰るんですか!?」
雨は降ってるし風もあるし雷だって。さすがの野球部も校舎に避難している。
また雷が鳴った。ちょっと泣きたい。
じんわりと視界がぼやけた。と思ったら、背中側にあった腕が前に回されて、強引に向き合うようにして、きつく抱きしめられた。
「怖いの」
問うわけでもない、平淡な口調。また雷。肩が震える。
「僕の声を聞きたくないくらいに?」
意地悪。でも、回された腕が、緩く耳を塞いでいるのに、気づいた。
「僕以外に君が怯えるのは不快だね」
理不尽。でも、どこか優しい彼の声が聞こえるのは、顔が近いから。
「僕だけを感じていなよ――」
頬に、口付け。彼の鼓動が聞こえる。触れる所から体温が溶け合う。
「雷なんて、分からなくなるから」
唇が、重なる。驚いて目を開ければ、優しい笑顔があって。
見蕩れて、淡く笑み返すと、更にギュッと、抱きしめられた。



(――でも俺、このままだと圧死します……)
ドアを開ければクーラーに冷やされた空気が暑い廊下へ流れ込み、入り口に突っ立つ俺の身体をひんやり包む。しかしそれに心地よさを感じる間もなく顔から血の気が引いた。目が受容した情報を脳は瞬時に解釈し終えてしまった。抗う意思に関わりなく現実を突きつけられる。
そして、体内で一気に怒りが爆発するのを感じた。

何か、叫んで、気がつけば華奢とは言い難いはずの恋人をソファーに押し倒していた。抵抗もなく顔は無感情に整っているが目を逸らしこちらを見ようともしない。
じわりと、涙が溢れそうになった。
「ヒバリさんには、俺の気持ちなんて分からないんですかっ!?こんなに、好きなのに、信じてたのに」
僅かに眉間にしわが寄ったように見えた。何か言い訳がましく口を開く。堪らなくなって、開きかけた唇に自分の唇を重ねた。口づけは甘くて、余計に堪らなくて首に抱きついた。

「ひどい……」

耳元で呟けば彼は首を捻って顔をさらに背ける。


「――」
小声でぼそっと呟く声。しかしこれだけ近ければ聞き逃すはずもない。
瞬間、再び怒りが吹き上がった。

起き上がり手近にあった机をダンと叩けば、ピクッと肩が跳ねた気がした。そっぽを向く彼をひたと睨み据える。いつもじゃ絶対にできない。
しかし手が痛い。落ち着け、俺。
僅かに視線を黒い後頭部から逸らして、ゆっくり言った。
逸らした先には空の器。いや、底の方には申し訳程度に果汁のみが残っている。

「俺の桃まで、全部食べましたね……?」
確認。するまでもないだろう。二人きりの部屋クーラーがきいてて窓すら開いてない中確かに置いてあった桃が忽然と消えたら相手の胃の中に隠れたに決まっている。上手く剥けて上機嫌で手を洗いにいった俺が馬鹿だった。

と、彼がごろりと寝転がったまま体を捻りこちらを向く。恨みがまし気に視線を向ければ、それでも映るのは澄んだ黒目。
口が開かれる。

「僕の前に置かれたんだから僕のものだ」

幾分小声だがさっきより透る声で、いつもの自信たっぷりな口調。何でこの人はいつもこうなんだ。
大きく息を吸って腹に思いきり力を込めた。

「まだ夏で桃は高いんですよっ!?一緒に食べようと思って買ってきたのにっ……!?」

唐突に口付けられた。いつの間に起き上がったのか。
やっぱり、甘くて、甘くて、泣きそうになったら、優しく頭を撫でられた。

「ッ、そんなことじゃ許しませんよ!」
精一杯睨んでやるが頬が熱い。まるで効いてないんだろう。
と、頭の上に小さな重みが乗った。首を傾げ手に取れば。


丸くて柔らかい、

桃。


「ヒバリ、さん……?」
見れば微かに口端を上げて微笑む綺麗な顔。思わず見蕩れて、その間に彼は立ち上がると棚に歩み寄りフルーツナイフを持ってきていた。
「剥いてよ。一緒に食べよう」

見るからに美味しそうな桃。

怒りなんて、吹き飛んでしまった俺は馬鹿なのか。



オマケ
ナイフを桃にあてる。流石というか、安物ではないのだろう。柔らかい果実は先ほどと違い切るたびつぶれる。
泣きそうになりながら、なんとか一切れ切って。そしたら、

手を掬われた。

指先に乗った桃をぺろりと食べて、呆然とただ見ていれば指についた果汁まで舐め取られた。

「美味しいね」
微笑みが何だか不吉で、慌てて桃を切ろうと視線を戻せば取り上げられた。
「美味しかったから、お礼がしたいな」
いつの間にやらさっきとは逆の体勢。
「いただきます」
ご馳走様だろう、とはしかし突っ込む余裕はなかった。
唇が、重なって、

口付けはやっぱり、甘かった。




クロネ様へ
ゴホッと咳が零れた。
喉から血の味がする気もする。火照った顔を水で濡らしたタオルで拭いながら病院の廊下を歩いた。
風邪をこじらせてしまったらしく、酷いので入院させてもらうことになったのだ。

静かな病院にスリッパのぺたぺたという足音が響く。ぼんやりと病室の札を眺める。
――20…3号室、あった。

扉に手をかけた一瞬、嫌な予感がよぎった。

――ま、前にこんなことなかったっけ…

しかし重い頭を振って考えを振り切り、そろそろと扉を開けた。
中を見て、ピシッと固まる。

「固まってないで、風邪なんだろう?寝たら?」

無表情で促す風紀委員長……と彼が横たわるキングサイズのベッド。ちなみに他にベッドは見当たらない。
思わず冷や汗。熱など吹っ飛んでしまった気がする。

「寝なくていいの」
「いえ、何処に……」
「床ででも寝るつもり?」
「あ、かっ風邪が移っちゃいけませんし……」
「何言ってるの、既に風邪ひいてるんだけど」

悪あがきもあっさり流された。
ヒバリさんの顔がだんだん不機嫌になっていくのが見てとれて、恐る恐るベッド近づく。でもやっぱり躊躇していると

「さっさと入らないと、咬み殺す……!」

慌ててベッドの隅に入った。
ヒバリさんと向かい合うのは論外。背を向けるのも恐ろしくて、天井を向いて目を閉じる。

――し、心臓がうるさくて眠れないっ


「そんな端じゃ寒くて風邪こじらせるよ」

やけに確信的な声とともに、温もりを感じる。腰にまわされた腕に引き寄せられる感覚。慌てて目を開ければすぐ近くにヒバリさんの少し熱で赤みを帯びた綺麗な顔。

「何、そんな見てるの」
「……っあ、す、すみませんっ」

勢いよく寝返りを打つ。ヒバリさんに背を向けて、はっとする。
同時に、背中に熱を感じた。ぎゅっと、抱きしめる腕と、肌越しに伝わってくる鼓動。

「僕は寝るから。起こさないでね」

唇を当てられた首筋から直接伝わってきた言葉に心臓が跳ね上がる。すぐに穏やかな寝息が聞こえてきたが早鐘をうつ心臓は一向に収まらない。

――だ、だから眠れないってば!
心の中で叫びながら、けれど心地よさを感じる自分に呆れつつ、自分も目を、閉じた……


何故病院にキングサイズベッドがあるのかは永遠の謎

今日、俺は珍しく台所に向かっている。しかしあらかた作業は終わったので今はぼんやり立っていた。
そしたら。

カラカラ……

窓の開く音。慌てて振り向くと、そこには何故か雲雀さんがいた。
「お邪魔します」
言ってきっちり靴を揃えて置き、しかし許可もなくずかずかと入ってくる。
今更ながらこの人玄関という存在を知っているのだろうか。
「ヒバリさんどうしたんですか?」
無視。なんか悲しい。
雲雀さんは食卓まで来ると、持っていた風呂敷包みを置いた。
そして俺がちらちら後ろを気にしている間に食卓には風呂敷が手早く広げられ、中から重箱が現れ。さらにその中からは葉にくるまれた真っ白い餅が現れた。
「作ったから、一緒に食べないかと思って」
質問は聞いてたらしい。
……
……
……
いやちょっと待て。作った?
目の前の柏餅は売り物並みに整ってて美味しそうなのだが。無茶苦茶うまい。
しかしそういえば何故か葉は桜型だ。桜にしては先が丸いけど。これじゃむしろ……いや、桜。桜。まさかね。
密かに葛藤していたら不機嫌そうに顔を背けられた。
「いらないなら、いいけど」
そういいながら自分でひとつ手に取りぱくりと一口。不機嫌そうに装っているけど頬が緩んでる。気がする。甘い物好きだったっけ。
しかし美味しそうだ。別に怪しいものは入ってなさそうだし。俺もそろっとひとつに手を伸ばす。
途端に視線を感じた。

悪意は、ない。チラッと横目で伺えばじっと、まるで何か期待する幼子のような顔。
――か、可愛い……
思わず顔ごと彼に向き直り見つめてしまった。
勿論雲雀さんは不審そうに眉を寄せ慌てて視線をはずしてしまった。それで俺も我に返って一口かじる。
瞬間。
「おいしい……!」
程よい弾力の餅と口に広がる滑らかな漉し餡の甘さ。文句なしにうまい。餡子が少し水っぽい気もするけど、もしかして本当に手作りなんだろうか。
そのままもう一口、二口……あっという間に食べ終えてしまった。
「ヒバリさん、おいしいですねこれ!」
満面の笑みを浮かべ隣を見遣れば。

雲雀さんは、忽然と消えていた。
辺りを見回すと、何故かオーブンの前に。いや、別に『何故か』じゃないんだけど。
そういえばこの人の甘党は尋常じゃないんだった。油断した。
「あ、ちょっと待ってくださいまだ見ないで……っ」
「焦げるよ」
中を覗き込むとすぐさまオーブンを開け、いつの間に探し当てたのかミトンをはめた手で型を取り出す。
片手で鍋しきを探し当て食卓に型を置き、クーラーを探しあてると型の中身を外して冷ました。
驚くほど手馴れている。かなり速い。むしろ神業。あれ、この人うちの台所初めてだよね……?
自分の過去を思い出し思わず意識が遠のいた。
「……美味しい」
声にはっと気を取り戻しヒバリさんを見れば、型に残った欠片を掬い取り食べている。
いつも失敗するので不安だったが、気に入ったみたいでよかった。
「お誕生日、おめでとうございいます、ヒバリさん」
ケーキが先に見つかってしまったのは予想外だったけど。はにかむように笑って言う。
そしたら、ケーキの端っこにまで手を出し始めていたヒバリさんが、顔を上げて。

「ありがとう、綱吉」

――綺麗な笑顔に、思わずまた見蕩れてしまった。

ヒバリさんはケーキの端をつまんでいる。飾ってないのに。
きっと、笑顔の9割は感謝じゃなくてケーキの甘さに上機嫌なだけなんだろうな……


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