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今日、俺は珍しく台所に向かっている。しかしあらかた作業は終わったので今はぼんやり立っていた。
そしたら。

カラカラ……

窓の開く音。慌てて振り向くと、そこには何故か雲雀さんがいた。
「お邪魔します」
言ってきっちり靴を揃えて置き、しかし許可もなくずかずかと入ってくる。
今更ながらこの人玄関という存在を知っているのだろうか。
「ヒバリさんどうしたんですか?」
無視。なんか悲しい。
雲雀さんは食卓まで来ると、持っていた風呂敷包みを置いた。
そして俺がちらちら後ろを気にしている間に食卓には風呂敷が手早く広げられ、中から重箱が現れ。さらにその中からは葉にくるまれた真っ白い餅が現れた。
「作ったから、一緒に食べないかと思って」
質問は聞いてたらしい。
……
……
……
いやちょっと待て。作った?
目の前の柏餅は売り物並みに整ってて美味しそうなのだが。無茶苦茶うまい。
しかしそういえば何故か葉は桜型だ。桜にしては先が丸いけど。これじゃむしろ……いや、桜。桜。まさかね。
密かに葛藤していたら不機嫌そうに顔を背けられた。
「いらないなら、いいけど」
そういいながら自分でひとつ手に取りぱくりと一口。不機嫌そうに装っているけど頬が緩んでる。気がする。甘い物好きだったっけ。
しかし美味しそうだ。別に怪しいものは入ってなさそうだし。俺もそろっとひとつに手を伸ばす。
途端に視線を感じた。

悪意は、ない。チラッと横目で伺えばじっと、まるで何か期待する幼子のような顔。
――か、可愛い……
思わず顔ごと彼に向き直り見つめてしまった。
勿論雲雀さんは不審そうに眉を寄せ慌てて視線をはずしてしまった。それで俺も我に返って一口かじる。
瞬間。
「おいしい……!」
程よい弾力の餅と口に広がる滑らかな漉し餡の甘さ。文句なしにうまい。餡子が少し水っぽい気もするけど、もしかして本当に手作りなんだろうか。
そのままもう一口、二口……あっという間に食べ終えてしまった。
「ヒバリさん、おいしいですねこれ!」
満面の笑みを浮かべ隣を見遣れば。

雲雀さんは、忽然と消えていた。
辺りを見回すと、何故かオーブンの前に。いや、別に『何故か』じゃないんだけど。
そういえばこの人の甘党は尋常じゃないんだった。油断した。
「あ、ちょっと待ってくださいまだ見ないで……っ」
「焦げるよ」
中を覗き込むとすぐさまオーブンを開け、いつの間に探し当てたのかミトンをはめた手で型を取り出す。
片手で鍋しきを探し当て食卓に型を置き、クーラーを探しあてると型の中身を外して冷ました。
驚くほど手馴れている。かなり速い。むしろ神業。あれ、この人うちの台所初めてだよね……?
自分の過去を思い出し思わず意識が遠のいた。
「……美味しい」
声にはっと気を取り戻しヒバリさんを見れば、型に残った欠片を掬い取り食べている。
いつも失敗するので不安だったが、気に入ったみたいでよかった。
「お誕生日、おめでとうございいます、ヒバリさん」
ケーキが先に見つかってしまったのは予想外だったけど。はにかむように笑って言う。
そしたら、ケーキの端っこにまで手を出し始めていたヒバリさんが、顔を上げて。

「ありがとう、綱吉」

――綺麗な笑顔に、思わずまた見蕩れてしまった。

ヒバリさんはケーキの端をつまんでいる。飾ってないのに。
きっと、笑顔の9割は感謝じゃなくてケーキの甘さに上機嫌なだけなんだろうな……


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