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起きたら、何かが変だった。

そっと首だけを動かし辺りを見回せば、しかしいつも通りの寝室があるだけ。布団も書棚も壁紙も変わりなく、机の上も眠る前と同じで誰か入った形跡もない。
違和感の正体も分からぬまま起き上がり欠伸を一つ、首を傾げながらも布団を出た。
寝不足の目を擦りながら服を選び出す。昨日はあれこれ今日の事を考えていてなかなか眠れなかった。カーテン越しのぼんやりした明かりを頼りに着替えを済ませポケットに色々と突っ込む。
眠気が引いてくると、なにやらそわそわと落ち着かなくなってきた。昨日の帰り際の笑顔が浮かぶ。
見回りだとか買い物ついでだとか色々と理由を付けてみても
結局のところ今日は
綱吉との
デート……!

とりあえず朝食でも食べようかと部屋を出る。しかしリビングに下りて適当に食べ物を物色してみても食欲はまるでわかなかった。時計を見れば8時、そろそろ出てもいいかも知れない。天気を窺おうとカーテンに手をかける。カーテンの隙間から朝の眩い光が差し込んで、
目眩。
足から力が抜けて、よろよろとソファーに倒れ込む。体を起こそうとしとも まるで動かせない。
せり上がる焦りとは裏腹に、目の前は暗くなり、意識が遠ざかった。




「……りさんっ、ヒバリさん!」
聞き慣れたまだ高い声、肩に力、揺すられる感覚、僅かに意識が浮上する。うっすらと目を開ければ、歪んだ顔。瞬いて再び目を開けば、ぼんやりした視界に跳ねた茶色い髪の少年。しばらく見上げればやがて怪訝そうに覗き込む彼に焦点が合う。すると彼の顔はぱあっと明るくなった。
「ヒバリさん!よかった、いつまで待っても来ないから心配になって……」

受容する彼の手彼の顔彼の声、生きた感触。ドク、と全身が脈打ち一瞬にして意識が冴え渡る。今までの体のだるさはなんだったのか、体に力が漲りソファーから跳ね起きると、勢いのまま安堵に顔を緩める彼に飛びかかった。
そして、自分の行動に何ら疑問も持たずに、

カプと

首筋に牙をたてた。

零れる血を掬い舌先で擽る。
抱き締めた体がビクッと震えたのを感じて、漸く己の行動の異常に気がついた。そろりと牙を抜いて、けれどどうしようもなく体が血を求め疼く。堪えるようにさらにきつく抱き締めると、彼はもぞもぞと動き顔を上げた。
「ヒバリ、さん?」
思わず目を逸らしかけて、しかし彼の目が相変わらず澄んで見上げてくるのにはっとする。
「どうしたんですか」
戸惑った彼の声。ゆるゆると腕を解く。衝動は収まりかけていたが、違和感の正体には流石に気がついた。原因はさっぱり分からないが。

「ヒバリさん、吸血鬼になっちゃったんですか?」

きっと、そう。
異様に長い犬歯、触れれば尖った耳、壁に掛けられた鏡を覗けばそこには彼の後ろ姿のみが見えるだけ。
彼はヒバリさん既に吸血鬼みたいなのに、などと苦笑するように言う。呑気なものだ。
「驚かないの」
「ヒバリさんが何でも俺はヒバリさんが好きですから。ヒバリさんが俺の分まで驚いてるし」
まるで変わりない呑気さに少し苛立った。

「ひょっとすると不死身になっちゃったかもね」

ポツリと呟けば彼の声。
「酷い、俺をひとりで先に逝かせる気ですか」
しばし沈黙する。さあ、と肩をすくめれば彼はそのまま続けた。
「それなら俺も吸血鬼になれますかね」
ずうっと一緒ですよ、と。
「君なんか、復活するほど血に飢えてるとは思えないけど」
彼は一瞬真面目な顔をして、それから笑った。

「じゃあ、俺が死ぬ時はヒバリさんも一緒に死んで下さい」

その笑みはいつもの平和ボケしたもののようで、けれど何処か痛みを孕んだ。
「俺が、ヒバリさんを殺すから。一緒にいましょう」

……ああ、この子はまだ不安なのか。
「ふざけないで。君なんかに殺されないよ」
肩がピクリとはねたが構わず彼に手を伸ばし、続ける。
「君が死んだら全部に復讐してから、自分で死ぬ」
華奢な体を抱きしめた。見開かれた目が自分を見上げて。
「ありがとうございます」
ふにゃ、と彼の顔が笑み崩れた。


ふと、彼の澄んだ目に自分が映っているのが見えた。変わりないようででもやっぱり牙と耳が突き出た顔。鏡に映らなくても、此処に映っていれば十分だ。
と、じっと見上げていた彼が照れるように微笑んだ。
なに、と問えば彼は僕の頬に手を当てる。

「紅い目も、綺麗ですね」
俺、ヒバリさんが全部好きです、と。心の底から笑うから。
つられて顔が緩む。
僕も好きだよと呟いてふと日付を思い出す。
そっと口角を上げて、耳の隣で囁いた。


「Trick or treat?」
喉が渇いたね君が欲しい
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