忍者ブログ
[15]  [14]  [12]  [11]  [10]  [9]  [8]  [7
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「あったか……」
薄い紙包みからじんわりと熱が指先にしみる。かじかんだ手には少し熱かったけれど、それも慣れれば心地いい。
手頃なベンチを見つけて座る。木製だけれど、やっぱり冷えていてぶる、と少しだけ身震いする。
包みを開ければ仄かに甘い生地のかおりが温められた空気にのって伝わる。白のゆるい曲線が覗きこく、と喉が鳴った。
一口、かじればやわらかい生地と温かい餡子が程よい甘さを広げる。
誰に言うでもないけれど思わずおいしいと呟いた。

もったいなくて少しずつかじっていく。ふたくち、みくち。
と、唐突に黒髪がさらりと流れあんまんを横からかじった。
あんまんをもっていた手に頬がかすってほんのりと熱を残す。
「おいしい」
綺麗な声。驚きに固まった思考がまた動き出す。しかしいったい何処から出てきたんだ。半ば呆れ振り返った。
ベンチ越しに学ラン姿の少年。ヒバリさん、呼ぼうとしたら後ろから抱くように手を重ねあんまんをはしと掴まれた。
「校則違反。登下校中買い食い禁止」
淡々とした口調、けれど心なしか口角が上がっている、ような。というかヒバリさんさっき食べてませんでしたか!?
言えるはずもないことが頭をよぎりつつこわばった顔を無理矢理笑わせてみる。血の気が引いてくのはどうしようもない。
「罰則だね」
ますます彼の口角が上がる。
が、トンファーが出されることはなく。

あんまんが手からすり抜けた。

豪快にぱくりと、ど真ん中にかぶりつく。未だかつて見たことのない笑み。
呆けているとあっという間に残りは一口大になっていた。
――咬み殺されるより、マシだろうか……
粒あんが口一杯に広がる甘さを想像して、思わず涙目になる。
ふと、彼が最後のひとかけらをこちらに向けた。口元に差し出されたそれが甘い香りをふわりと運び、手で受け取るのも忘れて口を開ける。
ぱくりと口を閉じる、直前まさしく目にも見えぬ速さで逆戻りしたあんまんが彼の口の中に消えた。

「…………っ……ヒバリさん!!!」

思わず腕をもぎ取らんばかりに縋り付いた。と同時に彼のもう片方の腕が頭の後ろを捉えるのを感じる。
上向かされた顔のすぐ近くに彼の綺麗に整った顔。仰け反ろうとしたけれどまるで動かせない。
鼻先が一瞬触れて僅かに首を傾いだ彼の唇が重なった。

その熱はすぐ離れたけれど、冷気に侵される唇と対照的に頬はだんだん熱くなる。
「ご馳走様おいしかったから今日はこれで許してあげる」
彼の手が離れてすとんと落ちるように再びベンチに座り込む。何か理不尽な気もしたがうまく頭が回らない。ぼおっと見上げていると
彼の手にトンファーが現れた。
「と思ったけど、せっかくだからやっぱり戦ってよ」
「…………はいっ!?」
やはりとても理不尽だった一瞬にして醒めた頭で考えて、俺は全速力でその場を後にした……

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
最新コメント
プロフィール
HN:
水音
性別:
非公開
忍者ブログ [PR]


(Design by 夜井)