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ゴホッと咳が零れた。
喉から血の味がする気もする。火照った顔を水で濡らしたタオルで拭いながら病院の廊下を歩いた。
風邪をこじらせてしまったらしく、酷いので入院させてもらうことになったのだ。

静かな病院にスリッパのぺたぺたという足音が響く。ぼんやりと病室の札を眺める。
――20…3号室、あった。

扉に手をかけた一瞬、嫌な予感がよぎった。

――ま、前にこんなことなかったっけ…

しかし重い頭を振って考えを振り切り、そろそろと扉を開けた。
中を見て、ピシッと固まる。

「固まってないで、風邪なんだろう?寝たら?」

無表情で促す風紀委員長……と彼が横たわるキングサイズのベッド。ちなみに他にベッドは見当たらない。
思わず冷や汗。熱など吹っ飛んでしまった気がする。

「寝なくていいの」
「いえ、何処に……」
「床ででも寝るつもり?」
「あ、かっ風邪が移っちゃいけませんし……」
「何言ってるの、既に風邪ひいてるんだけど」

悪あがきもあっさり流された。
ヒバリさんの顔がだんだん不機嫌になっていくのが見てとれて、恐る恐るベッド近づく。でもやっぱり躊躇していると

「さっさと入らないと、咬み殺す……!」

慌ててベッドの隅に入った。
ヒバリさんと向かい合うのは論外。背を向けるのも恐ろしくて、天井を向いて目を閉じる。

――し、心臓がうるさくて眠れないっ


「そんな端じゃ寒くて風邪こじらせるよ」

やけに確信的な声とともに、温もりを感じる。腰にまわされた腕に引き寄せられる感覚。慌てて目を開ければすぐ近くにヒバリさんの少し熱で赤みを帯びた綺麗な顔。

「何、そんな見てるの」
「……っあ、す、すみませんっ」

勢いよく寝返りを打つ。ヒバリさんに背を向けて、はっとする。
同時に、背中に熱を感じた。ぎゅっと、抱きしめる腕と、肌越しに伝わってくる鼓動。

「僕は寝るから。起こさないでね」

唇を当てられた首筋から直接伝わってきた言葉に心臓が跳ね上がる。すぐに穏やかな寝息が聞こえてきたが早鐘をうつ心臓は一向に収まらない。

――だ、だから眠れないってば!
心の中で叫びながら、けれど心地よさを感じる自分に呆れつつ、自分も目を、閉じた……


何故病院にキングサイズベッドがあるのかは永遠の謎

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