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ツナは雲雀さんに黙ってイタリアに行ってしまいました、なお話。
数年後設定ですが、分からないな……


強い日差しが部屋を明るく照らし、窓からは乾いた風が潮の香りをのせて流れ込む。まだ慣れない異国の、初めての夏。
じめじめしないから割と楽だと思ったけれど、やっぱり暑いものは暑い。クーラーは流石にもったいないので(何故か)バジル君から差し入れられた扇子で仰ぎつつ、ぺらぺらとイタリア語入門と書かれた本を捲っていく。まずは言葉が通じなければ話にならないから、目は必死に文字を追っていく。
はず。

けれど。読んでるはずの内容は、さっぱり頭に入ってこなかった。




一瞬、強い風が駆け抜けた。
さして力を入れてはいなかったから、風はあっという間にページを捲りきってしまった。あーあ、と溜め息をつきながら、また開くのも億劫で椅子に座ったまま伸びをする。
と、視界に黒いものが映った気がした。とくん、と心臓が高鳴る。
頭の隅で全否定しながら、けれど体は心に逆らえずゆっくり、視線を部屋の片側へと移す。

二階なのに。窓枠に乗っかる、黒い人影。焦がれ続けた、懐かしい綺麗な顔。

窓に、目が釘付けになる。そんな、まさか。とうとう幻覚まで。
頬をつねる。目を擦る。また頬をつねる。まだ、消えない。

「久々に会ったと思ったら、何変顔作ってるの」

何度聞いても、綺麗だな、と思う、大好きな声。呆れたような。

「ヒ、バリさん……?」

ほん、もの、なのかな。もっと、はっきり見たいのに。視界はどんどんぼやけ歪んでいく。
不意に、首に腕が回される感触。ぎゅっ、と抱きしめられて。
間近から、震えるような吐息を感じた。

「なん、で」
聞こえたのはいつもの彼に似つかわしくない弱々しい声。抱きしめる手まで震えてるような気がした。
「なんで、僕の前から勝手に消えたの」
ゆっくり、解かれる腕。彼の真っ黒な目が真っ直ぐ自分に向いて。
「もう、僕は嫌い?」
離れてゆくぬくもりに、とっさに縋りついた。

「違う!」

自分でも驚く程鋭い声だった。春に、振り切ったのではなかったか。でも、押さえるのはもう不可能だった。
涙を拭い、やっと鮮明に見られた彼の目をしっかり見つめる。
「何も言わなくて、ごめんなさい」
頭の隅で必死に制止する声がする。けれど、溢れ出す言葉には追いつかない。
「でも俺、ヒバリさんが好きです。それは絶対変わらない。会えなくて、死ぬ程寂しかった。でも、巻き込むわけにはいかないから……っ」


唐突に視界が真っ黒になった。掴んでいた腕に、いつの間にか優しく抱かれていた。

「よかった」

頭から伝わるあたたかい、優しい、ほっとしたような声に、柔らかく包まれる。
彼がそのまま床に膝をつくと、秀麗な顔が至近距離で綺麗に笑みを浮かべたのが見えた。

「前言撤回不可だからね。もう、逃がさないよ?」

唇から零れる温かい吐息が顔をくすぐる。捕食者の鋭い眼差しに射抜かれ一瞬固まると、唇に柔らかい感触。会えなかった時を埋めるように、何度も何度も口付けられる。
不意に、体が浮く感覚。目を開ければ、いわゆるお姫様抱っこ。慌てて下りようとしたけど、目が合った彼は本当に綺麗な、幸せそうな顔をしていて。心の中でこっそり、いつまで経っても埋まらない身長差に愚痴を零すだけにした。

「今度こそ、結婚しよう。もう、待ってあげないから。一緒にいたい」

抱かれたままさらに引き寄せられ囁かれた言葉。俺はふふ、と笑って返す。

「もう7月ですよ?ジューンブライド逃しちゃいましたね」
「神様に守ってもらう必要なんてないよ。僕が幸せにするから」

さらりと真面目に返されてしまった。頬が心なしか熱くなる。
抱っこのまま歩きだすと、そっと、ベッドの上に下ろされた。




「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、綱吉を想い、綱吉のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓う」

さっき、神様の祝福なんていらないと言ってたのに。すらすらと唱えて、彼はそっと、優しい誓約のキスをした……


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