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「………っ」

思わず肩が跳ねた。窓向き側のソファーに、座るべきじゃなかった。
来る。来る。絶対来る。
目を瞑り耳を塞ぐ。息を詰めて、数秒後、轟く雷音。
恐る恐る目を開ければまた暗い空に稲妻が走る。
急いで顔を伏せる。轟音。
絶対、雷様はサディストだ。空を光らせて、いつ鳴るかいつ鳴るかと怯える人間を見て楽しんでるんだ、きっと。へそ取るとか言うし。
現実逃避に走れば、不意に人の仄温かさを感じた。隣に座って後ろから抱きしめられているのか。
顔を上げれば、耳に当てていた手を外される。

途端、雷が鳴った。

慌てて耳を塞ごうとすれば手首を押さえられた。クスクスと笑い声が聞こえる。そうだ、この人もサディストだった。
次々と鳴る雷に、力任せで手を取り返そうとしたがびくともしない。
「なんなんですか!」
「帰ろうって言ってるのに君が聞かなかったから」
「こんな中帰るんですか!?」
雨は降ってるし風もあるし雷だって。さすがの野球部も校舎に避難している。
また雷が鳴った。ちょっと泣きたい。
じんわりと視界がぼやけた。と思ったら、背中側にあった腕が前に回されて、強引に向き合うようにして、きつく抱きしめられた。
「怖いの」
問うわけでもない、平淡な口調。また雷。肩が震える。
「僕の声を聞きたくないくらいに?」
意地悪。でも、回された腕が、緩く耳を塞いでいるのに、気づいた。
「僕以外に君が怯えるのは不快だね」
理不尽。でも、どこか優しい彼の声が聞こえるのは、顔が近いから。
「僕だけを感じていなよ――」
頬に、口付け。彼の鼓動が聞こえる。触れる所から体温が溶け合う。
「雷なんて、分からなくなるから」
唇が、重なる。驚いて目を開ければ、優しい笑顔があって。
見蕩れて、淡く笑み返すと、更にギュッと、抱きしめられた。



(――でも俺、このままだと圧死します……)
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ドアを開ければクーラーに冷やされた空気が暑い廊下へ流れ込み、入り口に突っ立つ俺の身体をひんやり包む。しかしそれに心地よさを感じる間もなく顔から血の気が引いた。目が受容した情報を脳は瞬時に解釈し終えてしまった。抗う意思に関わりなく現実を突きつけられる。
そして、体内で一気に怒りが爆発するのを感じた。

何か、叫んで、気がつけば華奢とは言い難いはずの恋人をソファーに押し倒していた。抵抗もなく顔は無感情に整っているが目を逸らしこちらを見ようともしない。
じわりと、涙が溢れそうになった。
「ヒバリさんには、俺の気持ちなんて分からないんですかっ!?こんなに、好きなのに、信じてたのに」
僅かに眉間にしわが寄ったように見えた。何か言い訳がましく口を開く。堪らなくなって、開きかけた唇に自分の唇を重ねた。口づけは甘くて、余計に堪らなくて首に抱きついた。

「ひどい……」

耳元で呟けば彼は首を捻って顔をさらに背ける。


「――」
小声でぼそっと呟く声。しかしこれだけ近ければ聞き逃すはずもない。
瞬間、再び怒りが吹き上がった。

起き上がり手近にあった机をダンと叩けば、ピクッと肩が跳ねた気がした。そっぽを向く彼をひたと睨み据える。いつもじゃ絶対にできない。
しかし手が痛い。落ち着け、俺。
僅かに視線を黒い後頭部から逸らして、ゆっくり言った。
逸らした先には空の器。いや、底の方には申し訳程度に果汁のみが残っている。

「俺の桃まで、全部食べましたね……?」
確認。するまでもないだろう。二人きりの部屋クーラーがきいてて窓すら開いてない中確かに置いてあった桃が忽然と消えたら相手の胃の中に隠れたに決まっている。上手く剥けて上機嫌で手を洗いにいった俺が馬鹿だった。

と、彼がごろりと寝転がったまま体を捻りこちらを向く。恨みがまし気に視線を向ければ、それでも映るのは澄んだ黒目。
口が開かれる。

「僕の前に置かれたんだから僕のものだ」

幾分小声だがさっきより透る声で、いつもの自信たっぷりな口調。何でこの人はいつもこうなんだ。
大きく息を吸って腹に思いきり力を込めた。

「まだ夏で桃は高いんですよっ!?一緒に食べようと思って買ってきたのにっ……!?」

唐突に口付けられた。いつの間に起き上がったのか。
やっぱり、甘くて、甘くて、泣きそうになったら、優しく頭を撫でられた。

「ッ、そんなことじゃ許しませんよ!」
精一杯睨んでやるが頬が熱い。まるで効いてないんだろう。
と、頭の上に小さな重みが乗った。首を傾げ手に取れば。


丸くて柔らかい、

桃。


「ヒバリ、さん……?」
見れば微かに口端を上げて微笑む綺麗な顔。思わず見蕩れて、その間に彼は立ち上がると棚に歩み寄りフルーツナイフを持ってきていた。
「剥いてよ。一緒に食べよう」

見るからに美味しそうな桃。

怒りなんて、吹き飛んでしまった俺は馬鹿なのか。



オマケ
ナイフを桃にあてる。流石というか、安物ではないのだろう。柔らかい果実は先ほどと違い切るたびつぶれる。
泣きそうになりながら、なんとか一切れ切って。そしたら、

手を掬われた。

指先に乗った桃をぺろりと食べて、呆然とただ見ていれば指についた果汁まで舐め取られた。

「美味しいね」
微笑みが何だか不吉で、慌てて桃を切ろうと視線を戻せば取り上げられた。
「美味しかったから、お礼がしたいな」
いつの間にやらさっきとは逆の体勢。
「いただきます」
ご馳走様だろう、とはしかし突っ込む余裕はなかった。
唇が、重なって、

口付けはやっぱり、甘かった。




クロネ様へ
風が吹いた。
枝が軋み葉がカサカサと音を立て擦れ合う。落ち葉は地を転がりあるいは舞い上げられ後方へ流れていく。短い髪も後方へ流され弄ばれた。

風に一瞬眇めた目を開きまた歩き出す。枯れ葉と木立と乾いた地面、単調な景色が後ろへ流れ出す。

全てが流れてゆく。全てが一定に止むことなく後ろへ流れ、そうして前へと進む。


時も、等しく平等に。過去は置き去られ後ろへ流れゆき、未来へ止まず進み続ける。そんなの、気にもせず歩み続けていた。
だから、振り返ってしまってから、まるで知らなかったかのように驚き、

絶望した。


ずっと側にいて、当たり前に続くと思い込んでいた日常。知らぬ所で呆気なく崩れさった関係。棺桶に入った彼の頬に触れて、その白い顔が笑むことは二度とないと思い知って。

時など、止まってしまえと思った。

振り返っても、掴めない過去。後方へ流れて、遠く離れてゆく。立ち止まることすら許されない。
先など、酷く空々しく思えた。





「ヒバリさん」
唐突に掛けられた声。ちらと見れば駆けてくる少年。懐かしい面影、失った存在、けれど、確かに其処で意志を持ち動き生きていて。
一度失ったのに、守れなかったのに。追いかけてきた小さな少年。過去から、時を飛び越えて、また巡り会えた。

「ヒバリさん!」
声とともに、少年の手が袖を掴んだ。引かれて漸く立ち止まり、ゆるゆると振り返れば。

花のような笑顔を咲かす、最愛の人。

思わず見蕩れて。堰を超えてしまった想いのままに、そっと、抱きしめた。


ツナは雲雀さんに黙ってイタリアに行ってしまいました、なお話。
数年後設定ですが、分からないな……


強い日差しが部屋を明るく照らし、窓からは乾いた風が潮の香りをのせて流れ込む。まだ慣れない異国の、初めての夏。
じめじめしないから割と楽だと思ったけれど、やっぱり暑いものは暑い。クーラーは流石にもったいないので(何故か)バジル君から差し入れられた扇子で仰ぎつつ、ぺらぺらとイタリア語入門と書かれた本を捲っていく。まずは言葉が通じなければ話にならないから、目は必死に文字を追っていく。
はず。

けれど。読んでるはずの内容は、さっぱり頭に入ってこなかった。




一瞬、強い風が駆け抜けた。
さして力を入れてはいなかったから、風はあっという間にページを捲りきってしまった。あーあ、と溜め息をつきながら、また開くのも億劫で椅子に座ったまま伸びをする。
と、視界に黒いものが映った気がした。とくん、と心臓が高鳴る。
頭の隅で全否定しながら、けれど体は心に逆らえずゆっくり、視線を部屋の片側へと移す。

二階なのに。窓枠に乗っかる、黒い人影。焦がれ続けた、懐かしい綺麗な顔。

窓に、目が釘付けになる。そんな、まさか。とうとう幻覚まで。
頬をつねる。目を擦る。また頬をつねる。まだ、消えない。

「久々に会ったと思ったら、何変顔作ってるの」

何度聞いても、綺麗だな、と思う、大好きな声。呆れたような。

「ヒ、バリさん……?」

ほん、もの、なのかな。もっと、はっきり見たいのに。視界はどんどんぼやけ歪んでいく。
不意に、首に腕が回される感触。ぎゅっ、と抱きしめられて。
間近から、震えるような吐息を感じた。

「なん、で」
聞こえたのはいつもの彼に似つかわしくない弱々しい声。抱きしめる手まで震えてるような気がした。
「なんで、僕の前から勝手に消えたの」
ゆっくり、解かれる腕。彼の真っ黒な目が真っ直ぐ自分に向いて。
「もう、僕は嫌い?」
離れてゆくぬくもりに、とっさに縋りついた。

「違う!」

自分でも驚く程鋭い声だった。春に、振り切ったのではなかったか。でも、押さえるのはもう不可能だった。
涙を拭い、やっと鮮明に見られた彼の目をしっかり見つめる。
「何も言わなくて、ごめんなさい」
頭の隅で必死に制止する声がする。けれど、溢れ出す言葉には追いつかない。
「でも俺、ヒバリさんが好きです。それは絶対変わらない。会えなくて、死ぬ程寂しかった。でも、巻き込むわけにはいかないから……っ」


唐突に視界が真っ黒になった。掴んでいた腕に、いつの間にか優しく抱かれていた。

「よかった」

頭から伝わるあたたかい、優しい、ほっとしたような声に、柔らかく包まれる。
彼がそのまま床に膝をつくと、秀麗な顔が至近距離で綺麗に笑みを浮かべたのが見えた。

「前言撤回不可だからね。もう、逃がさないよ?」

唇から零れる温かい吐息が顔をくすぐる。捕食者の鋭い眼差しに射抜かれ一瞬固まると、唇に柔らかい感触。会えなかった時を埋めるように、何度も何度も口付けられる。
不意に、体が浮く感覚。目を開ければ、いわゆるお姫様抱っこ。慌てて下りようとしたけど、目が合った彼は本当に綺麗な、幸せそうな顔をしていて。心の中でこっそり、いつまで経っても埋まらない身長差に愚痴を零すだけにした。

「今度こそ、結婚しよう。もう、待ってあげないから。一緒にいたい」

抱かれたままさらに引き寄せられ囁かれた言葉。俺はふふ、と笑って返す。

「もう7月ですよ?ジューンブライド逃しちゃいましたね」
「神様に守ってもらう必要なんてないよ。僕が幸せにするから」

さらりと真面目に返されてしまった。頬が心なしか熱くなる。
抱っこのまま歩きだすと、そっと、ベッドの上に下ろされた。




「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、綱吉を想い、綱吉のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓う」

さっき、神様の祝福なんていらないと言ってたのに。すらすらと唱えて、彼はそっと、優しい誓約のキスをした……


ゴホッと咳が零れた。
喉から血の味がする気もする。火照った顔を水で濡らしたタオルで拭いながら病院の廊下を歩いた。
風邪をこじらせてしまったらしく、酷いので入院させてもらうことになったのだ。

静かな病院にスリッパのぺたぺたという足音が響く。ぼんやりと病室の札を眺める。
――20…3号室、あった。

扉に手をかけた一瞬、嫌な予感がよぎった。

――ま、前にこんなことなかったっけ…

しかし重い頭を振って考えを振り切り、そろそろと扉を開けた。
中を見て、ピシッと固まる。

「固まってないで、風邪なんだろう?寝たら?」

無表情で促す風紀委員長……と彼が横たわるキングサイズのベッド。ちなみに他にベッドは見当たらない。
思わず冷や汗。熱など吹っ飛んでしまった気がする。

「寝なくていいの」
「いえ、何処に……」
「床ででも寝るつもり?」
「あ、かっ風邪が移っちゃいけませんし……」
「何言ってるの、既に風邪ひいてるんだけど」

悪あがきもあっさり流された。
ヒバリさんの顔がだんだん不機嫌になっていくのが見てとれて、恐る恐るベッド近づく。でもやっぱり躊躇していると

「さっさと入らないと、咬み殺す……!」

慌ててベッドの隅に入った。
ヒバリさんと向かい合うのは論外。背を向けるのも恐ろしくて、天井を向いて目を閉じる。

――し、心臓がうるさくて眠れないっ


「そんな端じゃ寒くて風邪こじらせるよ」

やけに確信的な声とともに、温もりを感じる。腰にまわされた腕に引き寄せられる感覚。慌てて目を開ければすぐ近くにヒバリさんの少し熱で赤みを帯びた綺麗な顔。

「何、そんな見てるの」
「……っあ、す、すみませんっ」

勢いよく寝返りを打つ。ヒバリさんに背を向けて、はっとする。
同時に、背中に熱を感じた。ぎゅっと、抱きしめる腕と、肌越しに伝わってくる鼓動。

「僕は寝るから。起こさないでね」

唇を当てられた首筋から直接伝わってきた言葉に心臓が跳ね上がる。すぐに穏やかな寝息が聞こえてきたが早鐘をうつ心臓は一向に収まらない。

――だ、だから眠れないってば!
心の中で叫びながら、けれど心地よさを感じる自分に呆れつつ、自分も目を、閉じた……


何故病院にキングサイズベッドがあるのかは永遠の謎

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